今年,暗号資産界隈で流行したテーマの一つにDAOがあり,盛んに「DAOとは何か?」という議論が展開されています.
しかし,それらの多くはDAOという新たな概念の理解に留まり,個別の組織に言及したものはあまり見られません.そこで今回は,私たちのIndex Coopを例に,DAOの具体的な組織体制について解説していきます.
この記事は次の3つの章で構成されています.
Index Coopとは?
組織図
報酬設計
第一章では,そもそもIndex Coopは何を目的としたDAOなのか簡潔にご紹介します.
第二章では,Index Coopで活動する各チームの業務,およびチーム間の連携についてご紹介します.
第三章では自律・分散を謳うDAOの実際の報酬設計と,その問題点について議論します.
1. Index Coopとは?
Index Coopは,市場で最も信頼のおけるクリプトインデックスをつくることを目的に発足したDAOで,次の2つのビジョンを掲げています.1
インデックスプロダクトを開発し,すでにDeFiを利用している人たちだけでなく,潜在的なユーザーにも幅広く普及させる.
市場で最も優れたクリプトインデックスを運用することで,業界のトップリーダーとなる.
2. 組織図
Index Coopは数あるDAOの中でも組織体制が特に優れていることで知られています.では,実際どのようなチームがあり,それぞれがどのように連携しているのでしょうか.Pepperoni_Joe氏による組織体制の改善に関するプロポーザルから読み解いていきます.
まず,Index Coopの組織は
Pod
Nest
Wise Owls
という3つの階層に分類することができます.(下図参照)
Podとは組織の基礎となる集団で,互いに高い信頼関係を築いた少人数で構成されます.その特性上,機敏にタスクをこなし,特定の分野で結果を出すチームになっています.
次に,Nestは下図のように複数のPodで構成されたネットワークであり,各Podに資金を提供しサポートします.各Nestでは3-7人の最も信頼されている “Nest Coordinators” が選出されており,そのNest内のPodをサポートする任務を担っています.ここで,NestをIndex CoopのSub DAO,すなわち子会社のようなものと捉えるとわかりやすいかもしれません.PodはNest Coordinatorと協議し,新しいPodの設立や次年度の予算の受け取りを進めていきます.一方,Nestは各Podのタスクが円滑に進むようにアドバイスをしたり,必要であれば他Pod/Nestのメンバーを紹介したりします.
最後に,複数のNestをカバーしているWise Owlsは,明確な担当Nestがないが緊急を要する問題に対して意思決定を担う,機能横断的なグループになっています.ここでもコミュニティで信頼されている複数の代表者(Wise Owls Council)が選出され,業務を担っています.
組織の概要がつかめたところで,次は各チームの業務内容を詳しく見ていきます.上述のPod/Nest/Wise Owlsの分類はまだ確立されていないため,一部WG (Working Group)の名称が使われていますが,これはNestに読み替えて理解することができます.
People [Nest]
コミュニティメンバーをサポートし,各々の業務を円滑にすすめるために設立されました.主に,既存コントリビューターのスキルアップや新規コントリビューターの採用,Discordやweb会議の環境整備2,コントリビューター向けの情報発信を担当しています.3
Women + Non-Binary [WICWG]
Index Coopの中で未だ少数派である女性やnon-binaryのメンバーの活動をサポートする目的で設立されました.Index CoopはDAOエコシステムのリーダーとして,WICWGのような,メンバーの多様性,公平性,包括性を促進する取り組みを支援しています.4
Technical [AWG + EWG || T.Nest]
T.Nestは,財務やガバナンスなどに関するオンチェーンデータ解析をおこなうAnalytics WGと,プロダクトのシステム開発をおこなうEngineering WGが統合されてできたNestです.5 6
Product [PWG]
新規プロダクトの開発,現行のプロダクトの管理を目的に設立されました.具体的には,新たなインデックスの構想,開発,修正,管理にくわえ,既存のプロダクトの流動性維持や顧客教育などもおこなっています.7
Growth + Marketing [GMWG]
GMWGはIndex Coopの成長戦略全体を統括する目的で設立されました.主に,CEXとの合同AMA,市場調査,スポンサー獲得,顧客データの解析,TwitterやSubstack等でのインプレッション解析などをおこなっています.8
Design [DWG]
プロダクトの広告デザインの作成,およびデザイナー間の円滑な連携を目的に設立されました.主に,プロダクトのロゴやバナー,映像資料,ウェブサイトの作成・管理を担当しています.9
Business Development [BDWG]
Index Coopと企業/機関投資家との関係を構築・管理することを目的に設立されました.主に,CEXへの上場,他DeFiプロトコルとの提携,投資家向け広報活動をおこなっています.10
Institutional Business [IBWG]
大口投資家や機関投資家を対象としたビジネスを展開するために設立されました.主に,彼らへのプロダクトの説明やカストディ(信託会社)へのリスティング,CEX/DEXへの上場,OTCデスクの運営,大規模イベントの開催を担当しています.11
Asia + Pacific [APWG]
アジア太平洋地域での認知度向上,顧客獲得を目的に設立されました.主に,中国語圏のユーザーをターゲットにしたプロモーションや,アジア時間に対応したイベントなどを担っています.2021年12月現在,日本チームもこのWGに所属しています.12
Finance [F.Nest]
Index Coopのビジョンの達成に最適となる,財務上の決定をおこなうために設立されました.主に,事業会計や報酬計算,戦略的な資産配分,財務情報の報告およびそれらの説明責任を担っています.13
International [LOWG]
英語以外の言語での活動を支援・発展させ,世界各国で顧客を獲得することを目的に設立されました.中国やドイツ,スペイン語圏のユーザーを筆頭に,ロシアやトルコなど様々な国・地域を対象としたコンテンツの作成をおこなっています.14
3. 報酬設計
Index Coopで活動する人はコントリビューター(貢献者)とよばれ,次の3つのレベルに大別されます.
コア・コントリビューター
ミドル・コントリビューター
ニュー・コントリビューター
まず,コア・コントリビューターとは,チームリーダーや長期的にIndex Coopに貢献しているメンバーを指します.コア・コントリビューターになると,ParcelというDAOの財務管理システムを介して,固定給($USDC)および歩合給($INDEX)を受け取ることができます.
次に,ミドル・コントリビューターとはいずれかのチームに所属し,活動内容が定まっているメンバーを指します.ミドル・コントリビューターになると,月末に活動内容をまとめ,チームリーダーによる確認を経て報酬($INDEX)をもらうことができます.
最後に,ニュー・コントリビューターとはその名のとおり,新しくIndex Coopに参加し,まだ活動内容が定まっていないメンバーを指します.ニュー・コントリビューターは主に,他のメンバーによる依頼を受注し単発的に貢献することで,チップ($INDEX)を得ることができます.
報酬として得られる$INDEXの価値は,Index Coopのプロダクトによる収益や保有するトークンの価値と連動しているため,コントリビューターが自発的に貢献するようなインセンティブ設計がおこなわれています.さらに,この$INDEXはIndex Coopの運営に関わる様々な提案への投票権としてだけでなく,DeFi Pulse Index (DPI)に含まれている他プロトコルのガバナンス提案に対する投票権としても機能しています.このあたりは12月12付のJP Newsletterで詳しく解説されています.
ここまで各レベルの報酬設計について解説してきましたが,この構造にはいくつかの問題点も指摘されています.
例えば,コア・コントリビューターは自分たちで報酬額を決定でき,またそれを監査するシステムも万全でないことから,必ずしも貢献度=報酬になっていません.くわえて,固定給が設定されているため,現在アクティブに活動していないメンバーにも報酬が付与される可能性があります.
ミドル・コントリビューターの場合,活動内容の質はチームリーダーによって決定されることから,報酬もリーダーの裁量に依存しやすく,適切に評価されない可能性があります.また,自分自身で活動内容をまとめることから,記入漏れや意図的な水増しが生じる可能性があります.
また,ミドル・コントリビューター以上のメンバーがタスクを独占することで,ニュー・コントリビューターへの依頼がおこなわれず,結果的に新規参入者の定着が阻害されることも考えられます.
最後に
このようにIndex Coopでは,プロダクトの設計や広報,コミュニティの運営など様々な活躍の場が提供されています.また,それぞれのチームが独立した予算をもつことで,柔軟かつ機動的な活動が可能になっています.
しかし同時に,その組織体制や報酬設計には未だ多くの課題が残されており,完全な「自律分散型組織」の実現には至っていないことも理解いただけたかと思います.
この記事がDAOへの理解度向上や,DAOへの参加,さらには上記の問題を解決するような革新的なプロダクト開発の動機になれば幸いです.
Index Coopについてもっと詳しく知りたい方は,こちらをご覧ください.